6-1. 労働災害重大事故の背景分析 ― なぜリスクアセスメントが機能しなかったのか

労働災害における重大事故は、企業の安全管理体制に深刻な課題を突きつけます。特にリスクアセスメントを実施していたにもかかわらず、重大事故が発生するケースは少なくありません。その背景を分析することは、再発防止策を講じる上で不可欠です。本記事では、なぜリスクアセスメントが機能しなかったのかを掘り下げ、その改善策について考察します。

1. 形骸化したリスクアセスメント

多くの企業では、形式的にリスクアセスメントを行っているものの、実態に即していない場合があります。現場の実際の作業手順や新しいリスクが十分に反映されず、チェックリスト的な対応に留まってしまうことで、潜在的な危険源を見逃すのです。

2. リスク評価の過小評価

事故の背景には、リスクの重大性や発生確率を過小に評価していたことが挙げられます。過去に事故が起きていないからといって安全だと判断したり、管理者が主観的に危険性を低く見積もったりすることで、実際には高リスクの作業が放置されることがあります。

3. 現場と管理部門の乖離

リスクアセスメントは管理部門が主導することが多いですが、現場の声が十分に反映されないと、机上の計画にとどまります。現場従業員が抱えるヒヤリハットや作業上の違和感が無視され、潜在的リスクが顕在化した時に重大事故につながります。

4. 継続的改善の欠如

リスクアセスメントは一度実施すれば終わりではなく、定期的な見直しと改善が必要です。しかし、見直し体制が整っていなかったり、過去の災害事例を学習に生かさなかったりすることで、古い手順や不十分な対策が放置されることがあります。

5. 経営層の関与不足

重大事故の背景には、経営層がリスクアセスメントを経営課題として重視せず、現場任せにしてしまうケースもあります。安全投資が後回しになり、実効性のある対策が講じられないまま危険が蓄積していくのです。

まとめ

リスクアセスメントが機能しない背景には、形骸化、過小評価、現場との乖離、継続的改善不足、経営層の関与不足といった複合的要因があります。今後は、現場参加型のリスクアセスメントを実施し、データ駆動型の分析やAIによる予測を活用することで、実効性を高めることが重要です。また、経営層が主体的に安全文化を牽引することで、重大事故を未然に防ぐ体制が構築されるのです。