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8-4. ネイチャーポジティブとEHSの融合戦略

  • yutofukumoto
  • 8月20日
  • 読了時間: 2分

更新日:8月22日



ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止め、自然環境を回復させる方向へ社会全体を転換させる考え方を指します。企業経営においても、持続可能な事業運営やESG評価の向上を目指すうえで注目が高まっています。その実現にはEHS(環境・健康・安全)実務との融合が不可欠であり、両者を戦略的に結びつけることが競争優位の要因となります。


第一に、環境保全活動と事業リスク管理の一体化です。EHS部門は従来から環境影響評価や排出規制対応を担ってきましたが、ネイチャーポジティブの視点を取り入れることで、単なるリスク回避にとどまらず自然資本の再生や地域生態系への貢献に発展させることが可能です。たとえば、工場建設時に周辺の自然環境を保護する植林活動や湿地の再生などは、環境負荷低減と企業ブランド価値向上を同時に実現します。


第二に、サプライチェーンにおける生物多様性の考慮です。原材料調達や生産プロセスでの自然資源利用において、森林破壊や生態系破壊を回避することは国際的な要請となっています。EHS担当者は、環境監査や調達基準の策定を通じて、持続可能なサプライチェーンを確立し、企業の社会的責任を果たす必要があります。


第三に、従業員教育と意識改革の推進です。ネイチャーポジティブを浸透させるには、社員一人ひとりが生物多様性の重要性を理解し、日常業務に組み込むことが求められます。EHS教育プログラムに生態系保護の要素を組み込み、現場での環境負荷削減活動を促進することが効果的です。


第四に、情報開示とステークホルダーコミュニケーションです。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが国際的に広がる中で、企業は気候変動だけでなく自然資本に関するリスクと機会を開示することが求められています。EHS部門はこれらの開示基準を踏まえ、データ収集・分析・報告の体制を整えることが重要です。


最後に、企業価値と生態系サービスの両立です。自然環境の保全は、原材料の安定調達、水資源の確保、地域社会との信頼関係構築といった形で企業の持続可能性に直結します。EHS戦略とネイチャーポジティブを統合することで、リスク削減と同時に新たな成長機会を創出できるのです。


このように、ネイチャーポジティブとEHSの融合は、単なる環境対応を超えた経営戦略の柱として位置づけられます。企業は自然との共生を前提とした持続可能なビジネスモデルを構築することで、社会的信頼と長期的な競争力を確保できるのです。

 
 
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