top of page

1-18. GRIスタンダードに基づくEHS情報開示 ― 投資家に響く書き方

  • yutofukumoto
  • 8月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:8月22日

GRIスタンダード(Global Reporting Initiative Standards)は、企業が持続可能性に関する情報を開示する際に国際的に最も広く利用されている枠組みです。環境(Environment)、労働安全衛生(Health & Safety)、社会(Social)といったEHS分野の情報開示においても、GRIは投資家やステークホルダーが信頼性を持って比較可能なデータを得るための標準となっています。特にESG投資が拡大する中、EHS情報をどのように示すかは企業の評価を左右する重要な要素となります。


GRIスタンダードの特徴は、モジュール形式でテーマ別の開示項目が定められている点です。共通基盤(Universal Standards)に加え、環境、労働慣行、人権、社会などのトピックごとに詳細な指標が規定されています。EHSに関連する主なテーマには、エネルギー(GRI302)、水(GRI303)、排出物(GRI305)、廃棄物(GRI306)、労働安全衛生(GRI403)などが含まれます。企業は自らの事業活動の重要課題(マテリアリティ)を特定し、それに基づいて関連するGRI指標を選択し報告することが求められます。


投資家に響く情報開示のポイントは、まず「定量性と比較可能性」です。単なる取り組み事例の紹介に留まらず、温室効果ガス排出量、水使用量、労働災害発生率などの数値を明示し、前年比や業界平均との比較を示すことが重要です。また、将来目標を設定し、その進捗を測定可能なKPIとして提示することで、企業の改善努力が客観的に評価されます。


次に「リスクと機会のバランス」です。GRIは成果だけでなく課題やリスクの開示も重視しています。例えば「労働災害ゼロを目指しているが、2023年度に○件の重大災害が発生した。その原因と是正策は以下の通り」といった形で、ネガティブ情報も透明に説明することで信頼性が高まります。投資家は課題の存在そのものよりも、それにどう対応しているかを重視するため、誠実な開示が求められます。


さらに「戦略との接続」も不可欠です。EHS活動を単なるCSR活動として示すのではなく、事業戦略や長期的な成長計画との関連性を明確に説明することで、投資家にとっての事業価値向上の文脈に位置づけることができます。例えば、「水使用効率改善はコスト削減だけでなく、将来の水資源リスクへの対応策として競争力を強化する」といった説明が効果的です。


実務上は、財務報告と統合した「統合報告書」や「サステナビリティレポート」の中でGRIスタンダードに基づくEHS情報を開示するケースが増えています。これにより財務データと非財務データの関連性を投資家に示すことが可能となります。また、外部保証(第三者検証)を受けることで報告の信頼性を担保することも有効です。


結論として、GRIスタンダードは国際的に認知された情報開示の「共通言語」であり、日本企業が投資家や国際市場からの信頼を得るためには不可欠です。EHS分野の情報を単なる取り組み紹介ではなく、定量的データ、課題への対応、事業戦略との接続として示すことで、投資家に響く透明性と説得力ある開示が実現します。

 
 
bottom of page