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1-8. ISO14001(環境マネジメントシステム)におけるリスクと機会の考え方

  • yutofukumoto
  • 8月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:8月22日

ISO14001は、環境マネジメントシステム(EMS)の国際規格として、組織が環境負荷を低減し、持続可能な成長を実現するための枠組みを提供しています。2015年改訂で大きく導入された要素の一つが「リスクと機会」の考え方です。これは単なるリスク回避ではなく、環境側面や利害関係者の要求事項を踏まえ、組織が長期的に競争力を維持するための前向きなアプローチを意味します。ここでは、ISO14001におけるリスクと機会の考え方を整理します。


まず、リスクとは「望ましくない影響を及ぼす可能性のある要因」を指します。環境分野においては、法令違反による罰則や企業イメージの毀損、排出基準超過による操業停止、自然災害による設備損壊などが典型例です。例えば、大気汚染防止法や廃棄物処理法に違反した場合、行政処分だけでなく取引先からの契約解除や投資家からの評価低下にも直結します。このようなリスクを洗い出し、発生可能性と影響度を評価して対策を講じることがEMSの基本となります。


一方、機会とは「組織に有利な成果をもたらす可能性のある要因」です。環境マネジメントの分野では、省エネルギーや廃棄物削減によるコスト削減、新技術の導入による効率化、環境配慮型製品の市場拡大などが機会に該当します。例えば、再生可能エネルギーを導入することでCO₂排出量を削減できれば、法令対応に加えて企業価値向上やESG投資の対象となる可能性が広がります。このように、機会を積極的に取り込むことで、環境施策が経営戦略そのものに結びつくのです。


ISO14001におけるリスクと機会の考え方は、環境側面の特定プロセスに組み込まれています。組織は活動・製品・サービスが環境に及ぼす側面を洗い出し、その中から「重大な環境側面」を評価します。このとき、単に負の影響を管理するだけでなく、正の影響を強化する視点も求められます。たとえば、排出ガス処理設備の不具合はリスクであり、逆に廃熱回収設備の導入は機会と評価できます。


実務上のポイントは、リスクと機会を「文書化された情報」として管理し、PDCAサイクルに組み込むことです。計画(Plan)段階でリスクと機会を特定し、実行(Do)で対策を実施し、評価(Check)で有効性を確認、改善(Act)で再評価と改善策を講じる。この流れを繰り返すことで、環境パフォーマンスと組織のレジリエンスが高まります。


ただし、落とし穴もあります。一つは「リスクに偏重して機会を軽視する」ことです。監査の現場では、リスク管理は詳細にされているものの、機会の特定が不十分で指摘を受ける事例が多く見られます。もう一つは「形式的なリスクアセスメント」です。チェックリストの作成にとどまり、現場改善や経営判断に活用されなければ形骸化します。


結論として、ISO14001におけるリスクと機会の考え方は、単なる危険回避策ではなく、持続可能な経営戦略の一部です。企業は環境リスクを低減すると同時に、環境課題を競争優位の源泉として活用する視点を持つことが求められます。これにより、法令遵守、コスト削減、ブランド価値向上を同時に達成することが可能となるのです。

 
 
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