1-11. REACH規則とは?化学物質管理で日本企業が理解すべき要点
- yutofukumoto
- 8月19日
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更新日:8月22日
REACH規則(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)は、EUにおける化学物質管理の包括的な規制であり、2007年に施行されました。その目的は、人の健康と環境を化学物質によるリスクから保護すると同時に、EU域内市場での化学物質の円滑な流通を確保することです。EU市場に製品を供給する企業は、域内外を問わずREACH規則の義務を負うため、日本企業にとっても極めて重要な法規制です。
REACH規則の最大の特徴は「No data, no market(データがなければ市場に出せない)」という原則です。EU域内で年間1トン以上製造または輸入される化学物質は、その物質の特性や有害性に関するデータを登録しなければ市場に投入できません。登録は製造者や輸入者が行うことが原則ですが、EU域外企業である日本企業は、現地の「唯一の代理人(Only Representative, OR)」を通じて登録を行う必要があります。ORを選定せずに輸出を進めると、輸入業者に登録義務が移り、ビジネス機会を失うリスクがあります。
また、REACHには「評価」「認可」「制限」という三つの仕組みがあります。評価では、提出されたデータの科学的妥当性やリスク情報の確認が行われます。認可制度では、特定の高懸念物質(SVHC: Substances of Very High Concern)を使用する場合に欧州委員会の許可が必要となります。制限制度では、特定用途における物質の製造・販売が禁止されます。SVHCに指定されると、製品への使用は大幅に制限され、サプライチェーン全体で代替物質の検討が求められるため、日本企業にとっては特に注意すべきポイントです。
REACH規則は単に原材料の化学物質だけでなく、調剤品や最終製品にも影響を及ぼします。輸出する製品にSVHCが0.1重量%を超えて含有される場合、取引先や消費者に対して情報提供義務が発生します。さらに、EUのSCIPデータベースへの情報登録も義務化されており、情報管理が一層厳格化しています。特に電子機器、自動車部品、塗料、樹脂製品など、多数の日本企業が関与する業界では、サプライヤーから正確な含有情報を入手する体制整備が不可欠です。
日本企業にとっての課題は、①サプライチェーンからの化学物質情報収集の難しさ、②頻繁な規制改正やSVHCリスト更新への対応、③ORとの連携不足による登録遅延、④社内での情報管理と文書整備の不徹底、などが挙げられます。これらの対応を怠ると、輸出停止や取引先からの信用失墜につながりかねません。
対策としては、まずサプライヤーと連携し、含有物質情報を体系的に収集・管理できる仕組みを構築することが必要です。また、SVHCリストの更新を常に監視し、影響を受ける製品の特定と代替物質検討を迅速に進める体制が重要です。さらに、ORを慎重に選定し、登録業務を確実に遂行することも必須条件です。
結論として、REACH規則はEU市場へのアクセスにおける「参入パスポート」とも言える規制です。日本企業は法的要求を満たすだけでなく、化学物質管理を経営課題として捉え、リスク低減と競争力強化を両立させる姿勢が求められます。


