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1-19. SASB基準とEHSデータの重要性 ― セクター別要求事項の理解

  • yutofukumoto
  • 2025年8月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:2025年8月22日

SASB(Sustainability Accounting Standards Board)基準は、企業が投資家に対して財務的に重要なサステナビリティ情報を開示するための枠組みであり、特に米国を中心に投資家や機関投資家の間で広く認知されています。GRIスタンダードが幅広いステークホルダーに向けた包括的な開示基準であるのに対し、SASBは「投資家にとって財務的影響を持つサステナビリティ課題」に焦点を絞っている点が特徴です。そのため、企業の事業特性ごとに異なる重要課題をセクター別に整理し、EHS(Environment, Health & Safety)関連データの開示を求めています。


SASBは11の産業セクター、77の業種ごとに詳細な基準を定めています。例えば、製造業では温室効果ガス排出量、エネルギー効率、水使用、廃棄物管理が主要な開示項目となります。一方、医薬品業界では製品安全性やサプライチェーンにおける労働慣行が重視され、鉱業では労働安全衛生や地域社会への影響が重点課題として扱われます。このように、SASBは「業種特有のEHSリスクと財務的関連性」を明確に示すことで、投資家が企業のリスクと機会を評価できるように設計されています。


EHSデータの重要性は、投資家が企業の長期的な持続可能性と財務健全性を評価する際に不可欠な材料となる点にあります。たとえば、労働災害の発生率や排出規制違反による罰金は、直接的に財務リスクへとつながります。また、水資源利用効率や排出削減の取り組みは、将来の規制強化や社会的評価に対する耐性を示す指標となります。SASB基準では、これらを「財務的に重要な非財務情報」として体系的に投資家に提示することが求められます。


投資家に響く開示のポイントは、第一に「業種特有の重要課題を明確にすること」です。単なる一般的なCSR情報ではなく、自社の業種に特化したEHSリスクとその対応をSASB基準に沿って示すことが重要です。第二に「定量的な比較可能データ」です。例えば、労働災害件数を100万労働時間あたりの発生率で示す、排出量をスコープ別に開示するなど、統一的な指標を用いることで投資家が他社と比較できるようになります。第三に「財務的影響の説明」です。EHS施策がコスト削減や規制リスク回避、ブランド価値向上につながることを明確にすることで、投資家にとっての意義を理解させられます。


実務上は、SASB基準を単独で利用するのではなく、GRIやTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と組み合わせた統合的開示が主流です。SASBは「財務重要性」、GRIは「ステークホルダー重要性」、TCFDは「気候関連リスクへの対応」とそれぞれ補完関係にあり、これらを組み合わせることで説得力ある開示が可能となります。


結論として、SASB基準はEHSデータを「財務リスクと機会の視点」で整理する国際基準であり、投資家にとって理解しやすい開示を実現します。日本企業にとっても、グローバル市場での資金調達や投資家との対話を円滑に進めるためには、セクター別要求事項を正確に理解し、自社のEHSデータを財務的視点で開示することが不可欠です。

 
 
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