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1-3. 大気汚染防止法(大防法)改正の概要と工場が注意すべき点

  • yutofukumoto
  • 8月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:8月22日

大気汚染防止法(大防法)は、大気中への有害物質の排出を規制し、国民の健康保護と生活環境の保全を目的とする基本的な環境関連法です。工場や事業所で使用される燃料や化学物質、製造工程に伴う排ガスなどを対象に、排出基準や測定方法を定めています。2025年の改正では、近年の環境リスクや国際的な温室効果ガス削減目標を踏まえ、規制の範囲と厳格さが強化されました。工場の環境管理担当者にとっては、従来以上に緻密な対応が求められます。


今回の改正の大きなポイントは3つあります。第一に、特定粉じんや揮発性有機化合物(VOC)に関する規制の拡大です。従来は大規模施設が中心でしたが、中小規模事業所にも適用範囲が広がり、塗装工程や化学品の保管設備なども監視対象となりました。これにより、多様な業種で新たに排出抑制措置を導入する必要が生じます。


第二に、有害大気汚染物質のモニタリング強化です。ベンゼンやトリクロロエチレンなど発がん性が指摘される物質については、常時監視体制の構築が求められ、サンプリングや自動計測装置の設置義務が拡大されました。これに伴い、排出濃度や測定データの保存期間も延長され、行政への報告に加え、地域住民への情報開示を求められる場合もあります。


第三に、温室効果ガスとの統合的な規制です。従来は大防法の対象外であったCO₂やメタンなども、一定規模以上の排出事業所ではエネルギー起因排出量の把握・報告が義務化されました。気候変動対策基本法や省エネ法と連動する形で、工場単位の排出削減計画の策定が実務上不可欠となります。これにより、大防法は従来の「局所的な大気汚染対策」から「地球規模の環境対応」へと役割が拡張されたといえます。


工場が注意すべき実務ポイントとしては、まず設備投資の必要性です。排ガス処理装置やVOC回収装置の更新、モニタリング機器の導入は大きな負担となりますが、遅れれば行政処分や取引先からの是正要求に直結します。また、規制強化は一律ではなく、自治体によって上乗せ規制が存在するため、地域ごとの条例を確認することが欠かせません。


さらに、違反事例として多いのは、排ガス測定の不備やデータ改ざんです。測定頻度を満たさなかったり、外部委託先との連携不足で報告が遅延するケースが後を絶ちません。近年はドローンや遠隔監視システムを用いた行政のチェックも進んでおり、従来の「抜き打ち検査」以上に不正が発覚しやすい状況です。


企業に求められる対応は、①規制対象物質と設備の棚卸し、②モニタリング体制の強化、③排出削減のための改善計画策定、④従業員教育の徹底、の4点が中心です。特に環境部門だけに任せず、生産部門や設備管理部門を巻き込んだ全社的な体制整備が必要です。


大防法の改正は、単なる法令対応にとどまらず、企業の環境経営を前進させる好機でもあります。コンプライアンスを超えて、排出削減の成果をESG報告やサステナビリティ戦略に結びつけることで、社会的信頼と競争力を高めることができるでしょう。

 
 
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