1-20. 日本版サステナビリティ開示基準(ISSB対応)とEHS担当者が押さえるべき点
- yutofukumoto
- 2025年8月19日
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更新日:2025年8月22日
2023年に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が発行した「IFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示)」「IFRS S2(気候関連開示)」を踏まえ、日本でもサステナビリティ開示の統一基準策定が進められています。金融庁と企業会計基準委員会(ASBJ)が主導する「サステナビリティ開示基準委員会(SSBJ)」が中心となり、日本版サステナビリティ開示基準(いわゆるJ-ISSB基準)を整備し、上場企業を対象に段階的な適用が予定されています。これにより、企業は財務諸表と同様に投資家に対して信頼性の高いサステナビリティ情報を開示することが義務付けられる見通しです。
この開示基準のポイントは、「投資家にとって財務的に重要なサステナビリティ情報」を明確に提示することです。従来のCSR報告書や統合報告書が幅広いステークホルダーを意識していたのに対し、J-ISSB基準は投資家視点での比較可能性・信頼性を重視しています。特に気候変動関連リスクの開示は義務化され、温室効果ガス排出量(スコープ1・2・3)、気候シナリオ分析、移行計画といった具体的なデータが求められます。
EHS(環境・労働安全衛生)担当者にとって重要なのは、これまで部門内で扱っていた環境データや安全衛生情報が「財務開示の一部」として扱われる点です。環境領域では、エネルギー消費量、水使用量、廃棄物排出量、化学物質管理データなどが投資家向けに数値で開示されることになり、集計の正確性と説明責任が一層求められます。また労働安全衛生では、労働災害発生率、休業損失日数、従業員エンゲージメントなどの非財務情報が開示対象として想定され、人的資本経営との接続も重視されます。
実務上の課題は、第一に「データの一元管理」です。従来は工場や部門ごとに管理されていたEHSデータを、財務部門と連携して全社的に統合し、監査可能な形で整備する必要があります。第二に「マテリアリティの特定」です。ISSB基準では、企業の事業に財務的影響を与えるサステナビリティ課題を特定し、それに基づいて開示することが求められるため、EHS領域のリスクと機会を事業戦略の観点から再定義しなければなりません。第三に「外部保証対応」です。将来的に非財務情報にも監査や保証が導入される可能性が高く、数値の信頼性確保とトレーサビリティが不可欠となります。
一方で、この基準対応は企業にとってチャンスでもあります。適切なEHSデータ開示は、規制対応にとどまらず、投資家に対して企業のリスク管理能力や持続可能な成長力を示す材料となります。例えば、水使用効率改善や労災防止施策を具体的数値とともに開示することで、単なるコンプライアンス対応ではなく企業価値向上の取り組みとして評価される可能性があります。
結論として、日本版サステナビリティ開示基準(ISSB対応)は、EHS担当者の業務を「財務開示と直結する経営戦略領域」へと引き上げるものです。EHS担当者はデータ精度の確保、リスクと機会の明確化、経営戦略との接続を意識し、投資家に響く透明性の高い開示を実現する役割を担うことが求められます。