1-6. 海外基準と比較する日本のEHS法規制の特徴(OSHA・EU指令との違い)
- yutofukumoto
- 8月19日
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更新日:8月22日
企業の環境・安全・衛生(EHS)管理はグローバル化に伴い、各国の法規制への対応が避けられなくなっています。日本では労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法など個別法規を組み合わせる形でEHSが規制されていますが、米国のOSHA(労働安全衛生局)やEU指令と比較すると、その特徴が明確に浮かび上がります。ここでは、日本のEHS法規制の特徴を海外基準と対比しながら整理します。
第一の特徴は、規制体系の分散性です。日本では労働安全、環境保護、化学物質管理などがそれぞれ独立した法律で定められています。一方、米国のOSHAは労働安全衛生を一元的に監督し、職場におけるあらゆる危険源に対して包括的な規則を設けています。EUも枠組み指令(Framework Directive)を軸に、安全衛生に関する基本的義務を事業者に課し、各国が国内法に落とし込む方式を取っています。これに比べ、日本は縦割りの法体系となっており、事業者は複数の法規を横断的に理解・遵守する必要がある点で実務負担が大きいといえます。
第二の特徴は、遵守の位置づけの違いです。OSHAは違反に対して高額な罰金や刑事責任を科すことが多く、抑止力を強調しています。EU指令も加盟国による厳格な執行が前提となっており、違反は取引停止や操業禁止につながることもあります。一方、日本のEHS法規制は、罰則よりも行政指導や改善命令を重視する傾向があり、違反が発覚しても即座に操業停止に至るケースは比較的少ないといえます。このため、国際的には「規制が緩やか」と捉えられることもあり、グローバル企業が日本拠点のEHS管理に不安を抱く要因となっています。
第三に、リスク評価アプローチの違いが挙げられます。EUではREACH規則やCLP規則を通じて、化学物質に関するリスク評価と情報開示が事業者に強く義務付けられています。米国でもハザード・コミュニケーション規則(HazCom)により、化学物質の危険性情報を従業員に明示することが必須です。これに対して日本は、近年になってようやくリスクアセスメント義務化が進みつつある段階であり、体系的な情報共有や労働者参加の仕組みは限定的です。
第四の特徴は、労働者参加の度合いです。EUでは労働安全衛生委員会の設置や労働組合の関与が制度的に保障されており、従業員が安全管理に積極的に関与する文化があります。OSHAも従業員が匿名で申告できる仕組みを設け、現場からの情報を制度的に取り込んでいます。日本でも安衛法に基づき衛生委員会の設置が義務付けられていますが、形式化しているケースが多く、実効性の確保が課題となっています。
総じて、日本のEHS法規制は「個別法規の積み重ね」「行政指導中心」「労働者参加の限定性」という特徴を持ち、海外基準と比較すると体系性や強制力に弱みがあります。ただしその一方で、産業界の自主的取り組みやガイドライン運用に柔軟性があり、企業が独自のEHSマネジメントを構築する余地が大きいともいえます。グローバル企業にとっては、日本の法規制を単に遵守するだけでなく、OSHAやEU指令の要求水準を上回る自主基準を導入することが、国際的な信頼確保とリスク低減に直結する戦略となるでしょう。


