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1-12. 米国OSHA基準 ― 日本企業が知っておくべき主要要件と罰則

  • yutofukumoto
  • 8月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:8月22日

米国労働安全衛生局(OSHA: Occupational Safety and Health Administration)は、労働者の安全と健康を守るために1970年に設立されました。OSHA基準は米国内で事業活動を行うすべての企業に適用され、違反すれば高額な罰金や法的措置を受ける可能性があります。米国に進出している、あるいは米国向けに製品・サービスを提供する日本企業にとって、OSHA基準の理解と遵守は必須です。


第一の主要要件は「一般的義務条項(General Duty Clause)」です。これは、雇用主は既知の危険から労働者を保護する義務を負うという包括的な規定です。具体的な規則に明記されていなくても、明らかに労働者の健康・安全にリスクがある場合は、OSHAが違反を指摘できる根拠となります。この条項は非常に広範囲に適用されるため、日本企業も「規則に書かれていないから問題ない」と考えるのではなく、リスクそのものを低減する姿勢が求められます。


第二の要件は、特定産業・作業に関する詳細な規制です。OSHAは建設業、製造業、化学産業などに向けて、機械防護、化学物質のラベリング(HazCom規則)、防護具の使用、作業環境測定、緊急時対応手順など、多岐にわたる具体的な基準を定めています。特に化学物質管理では、SDS(Safety Data Sheet)の提供やGHSに基づくラベル表示が義務化されており、日本企業が米国に製品を輸出する際にも重要な要件となります。


第三の要件は、労働者教育と訓練です。OSHAは雇用主に対し、労働者が安全に作業を行えるよう必要な教育を提供することを義務付けています。訓練は理解可能な言語で行わなければならず、多国籍企業にとっては多言語対応が不可欠です。日本企業が現地従業員を雇用する場合、この要件を怠ると重大な違反となり得ます。


罰則については、違反の程度に応じて分類されます。軽微な違反であっても1件あたり1万ドル前後の罰金が科される場合があり、重大違反(Serious Violation)は1件あたり約1.5万ドル以上、繰り返し違反や故意違反(Willful Violation)では1件あたり最大16万ドルを超える罰金が課されることもあります。さらに、死亡事故など重大災害に至った場合は刑事責任が追及され、経営陣が個人として責任を問われるケースもあります。


日本企業が直面しやすいリスクは、①米国の安全文化に対する理解不足、②日本国内基準との違いによる見落とし、③教育訓練の不備、④文書化や記録保持の不徹底です。OSHA監査では、実際の作業環境に加えて記録類の整備状況が厳しくチェックされるため、形式的な対応では不十分です。


対応策としては、現地法令に精通した安全担当者の配置、定期的な自己監査の実施、OSHA基準に基づく教育プログラムの導入が不可欠です。また、米国の安全文化は「事後対応より予防重視」であるため、リスクアセスメントと是正措置を常に先行的に実施することが重要です。


結論として、OSHA基準は罰則の厳しさだけでなく、企業の安全文化を根本から問う制度です。日本企業は罰則回避を目的とするのではなく、OSHAを国際的な安全衛生水準と捉え、自社のEHSマネジメントを強化する好機とするべきでしょう。

 
 
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