1-13. 英国HSE規制の概要と日本拠点への影響
- yutofukumoto
- 8月19日
- 読了時間: 3分
更新日:8月22日
英国における労働安全衛生規制を管轄するのは、Health and Safety Executive(HSE:労働安全衛生庁)です。HSEは1974年の「労働安全衛生法(Health and Safety at Work etc. Act 1974)」に基づき設立され、英国全土の職場における労働者の安全と健康を確保することを使命としています。その特徴は、法律による強制力と監督機関による厳格な執行の両立にあります。HSEは独立した規制当局として調査権限や罰則権限を有し、違反行為に対しては企業のみならず経営層個人にも責任を問う仕組みが整えられています。
HSE規制の基本は「一般的義務(General Duties)」にあります。これは、雇用主が労働者の健康・安全を合理的に確保する義務を負うという包括的な考え方であり、具体的な規則や指針に加えて、リスク評価と予防措置を徹底することが求められます。特にリスクアセスメントは法的義務とされており、企業は危険源を特定し、対策を講じた記録を残さなければなりません。また、労働者の教育訓練や保護具の提供、労働安全衛生委員会を通じた従業員参加も重視されています。
HSEの執行は非常に厳格です。違反が認められれば改善通知(Improvement Notice)や禁止通知(Prohibition Notice)が発行され、場合によっては即時の操業停止や法廷での刑事訴追につながります。特に死亡事故や重大災害が発生した場合、企業だけでなく役員個人が刑事責任を問われる事例もあり、高額な罰金や懲役刑に至るケースも少なくありません。
日本企業にとって重要なのは、英国拠点だけでなく日本国内拠点にも間接的な影響が及ぶ点です。例えば、日本本社が英国拠点を持つ場合、HSE規制に適合する労働安全衛生マネジメントを構築する必要があります。そのため、日本側でも同等レベルの安全文化を根付かせ、統一的なEHS(Environment, Health and Safety)管理を行わなければ、グローバル統合監査や取引先評価で不適合と判断されるリスクがあります。
さらに、英国はEU離脱後もREACH規則やRoHS指令と同様に独自の規制体系(UK REACHやUKCAマーキング)を構築しており、日本企業の製品輸出や化学物質管理にも影響を及ぼしています。HSEはこれら環境・化学物質規制の執行機関でもあるため、安全衛生だけでなく環境対応の面でも英国基準への理解が必要です。
日本企業の課題としては、①リスクアセスメントの形式化、②労働者参加の不足、③経営層による安全責任の軽視、④英国特有の法文化への理解不足が挙げられます。日本国内では行政指導中心の文化が根強い一方、英国では法令違反に直ちに刑事責任が問われる点が大きな違いです。このギャップを認識せずに日本流の運用を持ち込むと、現地で重大なコンプライアンス違反に発展しかねません。
結論として、英国HSE規制は厳格な法執行と労働者参加を特徴とし、日本拠点にとっても国際的なEHSマネジメントの水準を引き上げる契機となります。日本企業は単に現地対応に留まらず、本社レベルでHSE規制を理解し、全社的に安全衛生文化を統合的に強化することが求められます。


